実演者の権利を守り、地位向上について考えます

委員による意見・提言等

風営法改正案に対する声明文

                                             2025年3月13日

                                          実演者地位向上委員会

       <風営法改正案に対する声明文>

 政府は、ホストクラブの女性客が高額な料金を請求されて借金を背負わされるという社会問題等を踏まえ、2025年(令和7年)3月7日、恋愛感情につけ込んで高額な飲食をさせるいわゆる「色恋営業」を禁止することなどを盛り込んだ風営法の改正案(以下、「改正案」といいます。)を閣議決定しました。しかし、改正案が作られるに際して、憲法22条1項によって保障される職業選択の自由・営業を規制される個人や事業者・法人の側への十分なヒアリングがなされているか否かについては立法過程に係る資料からは明らかではなく、一部の国民・市民等の声だけしか聴取されていないのではないかという疑念を払拭できない状況にあるといえます。
 言うまでもなく、被害を受けたとされる当事者の声は大切なものであり、この声を十分に聴取することは重要です。他方で、改正案によって不利益を被ることになる接待飲食営業に従事している個人や店舗・法人等の関係者の意見もまた、改正案に係る「当事者の声」の1つとして重要であり、考慮されるべきものです。そのため、これらの当事者への十分な聞き取りが行われた事実が確認できない以上、一部の声と机上の議論だけで拙速に改正案が作成されたものではないかとの可能性を指摘せざるをえません。そもそも、国会議員は「全国民」の代表であり(憲法43条)、利害関係を有する一部の国民の声を十分に聴取することなく法改正をすることは憲法の趣旨に反し、かつ、職業の自由が規制される当事者の基本的人権の保障に配慮を欠くものです。
 このたびの改正案ついては、2022年(令和4年)にAV出演被害防止・救済法(以下、「AV新法」といいます。)が成立した際の拙速な立法過程とも共通するところがあるものと懸念されます。AV新法は、職業の自由や表現の自由等の基本的人権を制限され、不利益を受ける当事者の意見を直接聴取することなく、一部の当事者の声を無視・軽視して成立してしまった法律のため、その悪影響が様々なところに表れました。ある「当事者」は、自身の生業としての事業を続けられなくなり、廃業を余儀なくされ、自身の職業を奪われました。また、規制目的との関係で比例性を軽視した過剰な規制によって、AVの製作に関わる「当事者」も、重大な不利益を被り、日々の生活を脅かされています。さらに、一部の問題はいわゆる地下化、従前よりも実態が見えなくなるという不都合も生じています。このようなことから、AV新法の場合と同様に、風営法の法改正においても同じ轍を踏むことなく、一部ではなくすべての当事者の意見を真摯に汲み取った上で、改正案を作成するべきです。
 なお、改正案の一部文言について規制対象や規制の範囲が不明確な点がある、改正案における罰則の過度の厳罰化、改正案が犯罪対策として十分に効果のあるものとなっているのかという問題など、改正案の内容面において指摘すべき問題もあると考えられますが、こうした諸問題についても、利害関係を有するすべての当事者の声を幅広く聞いていないという手続の瑕疵がその要因となっているものと考えられます。
 以上より、当会として、政府及びすべての国会議員に対し、改正案の作成に際して、上記の憲法の趣旨に適合した手続が履践されること及び改正案における厳罰化の方向性の再考を求める緊急の声明を公表いたします。

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